数学教育ね〜,なかなか,一筋縄じゃ行かないよな〜.

「概念理解をすべき」

数学教育を今までやってきて,今もやっている立場として,
twitterやらFacebookやらでよく見かけるのが,

「公式暗記なんてくだらない.概念からきちっと理解させればいい」

という意見.例えば最近話題の「モルグリコ」(これは数学じゃないけど)やら,
「みはじ」やらはその槍玉に上がる典型例.

数学教育は「公式暗記偏重」である.

まずもって言えることとして,特に中高数学教育は明らかに公式暗記偏重です.
僕は当然ながら数学指導をする側の人間なので,
色んな数学書を読んで数学の概念や,原理原則をそれなりには理解しているつもりです.

ですので,そんな訳分からん計算法に頼らなくても考えりゃ分かるじゃん…とか,
むしろそんな変な計算方法の使い方覚えるほうがしんどいじゃん…とか,
数学教育をやってると,よくそういうことを思ったりします.

気持ちはものすごく分かる

ですので,「概念からきちっと理解するほうが絶対に良い」という主張には,
僕は基本的に「大賛成」なんです.しかしながら,同時に数学教育をやりながら
「まぁ,でもそういう訳にも行かんよなぁ」とか思うことも多いのです.

「変化の割合」

例えば分かりやすい例として,関数の「変化の割合」の話があります.
x=pからx=qまで変化したときの関数y=f(x)の変化の割合は,以下のように定義されます.
%e3%82%b9%e3%82%af%e3%83%aa%e3%83%bc%e3%83%b3%e3%82%b7%e3%83%a7%e3%83%83%e3%83%88-2016-12-10-13-14-28どんな関数でも「変化の割合」って言われれば定義はこれで,
さらにこれは,「x=p, x=qに対応する曲線上の2点を結んだ直線の傾き」に等しいです.

%e3%82%b9%e3%82%af%e3%83%aa%e3%83%bc%e3%83%b3%e3%82%b7%e3%83%a7%e3%83%83%e3%83%88-2016-12-10-13-17-09なので,このことだけ分かっていれば変化の割合に関する問題で
困ることなんて無いし,多分入試問題も全部解けます.

「1次関数」と「2乗に比例する関数」

で,ここから先だんだん色々とおかしくなってくるんですが,
まず,1次関数y=ax+bについては, p,qによらず変化の割合は傾きaと等しくなります.
(これは,変化の割合を「2点結んだ線分の傾き」として図形的に理解していれば,
1次関数の上の任意の2点を結んだ直線は必ず1次関数そのものと一致することから明らかです)

%e3%82%b9%e3%82%af%e3%83%aa%e3%83%bc%e3%83%b3%e3%82%b7%e3%83%a7%e3%83%83%e3%83%88-2016-12-10-13-23-58さらに,2乗に比例する関数については,
x=pからx=qまでxが変化するときの変化の割合は a(p+q) で計算ができます.
(変化の割合の式に代入してちょいちょいっと変形すればこの結果はすぐに出てきます)
%e3%82%b9%e3%82%af%e3%83%aa%e3%83%bc%e3%83%b3%e3%82%b7%e3%83%a7%e3%83%83%e3%83%88-2016-12-10-13-24-04

数学を学ぶ上では「暗記」する必要のない事柄である

まず言えることとして,これは「数学を学ぶ」上では,多分「暗記」する必要が無い事柄です.
なぜなら,1次関数の変化の割合が傾きと一致することについては,
そんなのわざわざ暗記しなくてもグラフをイメージすれば明らかなことですし,
2乗に比例する関数についても,別に覚えなくたって定義を使って計算すりゃいいだけの話です.

なので,「定義とグラフのイメージをちゃんと理解しなさい.
そうすれば,この2つの公式は必死で暗記なんてしなくても全部問題は解けます」
とか授業で言いたくなったりするんです.

そもそも過半数の学生は「数学」に「そんなに頭を使わない」

でも,先程の説明がきちっと通用して,
一生懸命理解に勤しんでくれる学生というのは相当稀.
実際に過半数以上の学生は「そもそも数学というものに頭を使いません」.

(そもそも暗記偏重寄りから始めてしまっている
小学校教育あたりが原因だといえばそれはそうなんですが)
先程の説明を「受け止めて」「咀嚼して」「理解して」「使えるようになる」ところに
到達できる学生なんて,稀有の中の稀有だと僕は思います.

じゃあ,受験の内容を見てみると,

  • 1次関数の変化の割合=傾き
  • 2乗に比例する関数の変化の割合=a(p+q)

無条件に暗記していて,よくわかんないけど数値の代入だけは出来ます
という学生にとって解きやす〜いような問題が必ずと言っていいほど出題されます.

もちろん,こういう学生にも原理原則を根気強く粘り強く教え込んで,
根っこから理解させた上でこういう問題を解けるようにしたほうが
理想的には良いんでしょう.そりゃね,そりゃそうなんだけど,

じゃあ受験までに消化しなきゃいけないカリキュラムが山ほど残っていて,
コンスタントに襲ってくる定期テストや実力テストや模試で良い点数を取らないと
志望校を志望することすら許されなくなってしまうような状況で,
そんな懇切丁寧な教育を1単元1単元やっているほどの余裕が現場にあるのかって
そんなもんは絶対にあるわけが無いんですよ.

「あなたは塾教師だから,点数に直結するステロイド的な教育方針なだけでしょう」
って言われちゃうかもしれないけど,学校の先生だって保護者やら何やらから
「どうしておたくの学校の授業を受けても全然点数が取れないのか」
とか言われちゃうわけですからね.学校ごとの進学実績だって重要視される中で,
やっぱり「生徒に受験で点数をとらせる」ってことは,学校ですら追究しなきゃいけないですよ.

だからね,何が言いたいかというと,
「概念をきちっと理解する」という学生には概念を教え込めばいいんだけど,
もはや「概念の説明」なんて全く通じていかないような学生が大多数の中で,
そういう学生には「はい,1次関数の変化の割合は傾きで,
2乗に比例する関数の変化の割合はa(p+q)ですよ」と言わなきゃいけない
シチュエーションって,たくさんあると思いますよということ.

教育現場の人間が皆が皆「数学は暗記科目だ〜!暗記偏重バンザイ〜!」と思っているわけではない.

本当のところ数学が「概念をきちっと理解して,それを組み合わせてあらゆることを導く」
学問だということは,多分現場の先生方にも分かっていらっしゃる方は沢山いると思います.
(分かっていない方もたくさんいるんだろうけど)

で,例えばそういう先生が「俺は概念からちゃんと教えるからな」ってことを徹底して
クラス全体への教育が上手く成立するのかっていうと,
それはおそらく奇跡に近いことなのではないかと,僕は思っています.

だって,あまりにもしがらみが多すぎるんだもの.

  • そもそも「概念」への興味も理解もない学生がかなりの数いる.
  • でもみんな受験ではちゃんと点数を取らなきゃいけない.
  • もっというと定期テスト,学力試験,模試でもちゃんと点を取らなきゃいけないとみんな(正確には,みんなまたは「親御さん」)が思っていて,それらは月一以上のペースでコンスタントに襲ってくる.
  • それらのテストには「公式とりあえず暗記してる子に解かせるための問題」が一定数出題されるので,「とりあえずそこだけでも解答してくれよ」という意味で暗記させておくと,得点源の確保になる.

これらをすべて考えたときに,「数学教育現場は概念理解を徹底しろ!!」とは
僕はちょっと安易には言えないなと思います.
まぁ,こういうこと言うと,自分の教育不足を露呈しているみたいに言われちゃうのかな.
そうだとしたらごめんなさい.

何が言いたいかというと,教育っつーのは本当に難しい.

まぁこの支離滅裂な記事で結局何が言いたかったかというと,
教育っつーのはホント,難しいもんですねぇということでしかなかったり.

教育に限らず言えることだけど,多くの人たちを一挙に相手にすると
まぁー突如として一筋縄じゃ行かなくなるんだものね.

そこが難しさでもあり面白さでもあるんだけど,
ただ一つ言えるのは,実際の現場なんて一度も見たことないのであろう人たちが

「数学は概念が全て!教育現場は概念を教え込むべきだ!」
「公式の暗記なんて馬鹿がすることだ!」
「高校入試の数学が出来ないのなら,1年浪人をして数学を根っこから理解して再度臨むべきだ!」

とか言ってたりするのをみると,
あーあ,教育現場でそんな綺麗事がまかり通るとでも思ってんのかな〜
なんて思ってため息が出ることが,時折あるなぁと.

まぁ,そんな話でした.おしまい.