「教育業界12年目の嫁が語る、個別指導塾の深すぎる闇。」という記事が酷かった。
で予告していた通り,ちょっと長編になってしまうかもしれませんが,
連載「教育業界11年目が個別指導塾業界を語る」を始めてみます.

おことわり

まず,あらかじめおことわりだけしておきます.

  • この連載は,特定の他社を批判するものではありません
  • この連載は,あくまで個人の見解です.

あらゆるご家庭にとって「塾選び」はとても身近なテーマです

お子さんをお持ちのご家庭にとって,お子さんを「学習塾」に通わせるかどうか?
通わせるとしたら,どのような「学習塾」に通わるべきなのか?
ということは,非常に身近に生じてくるテーマであると思います.

一言で「学習塾」と言っても,いくつかの種類があります.
今の時代は,大まかに分けて以下のように分類をすることが出来るでしょう.

  • 集団授業型
  • 個別指導型(個別教室)
  • 家庭教師
  • WEB教育プラットフォーム(スタディサプリなど)

これだけ多くの種類の「学習塾」が軒を連ねる中で,
ご家庭,特に親御さんは,例えばテレビCM,新聞折込広告等を参考にしたり,
保護者間での「口コミ」を頼りに塾を探したり,
とにかく色々な情報をもとに,お子さんにとって「最適」な学習塾を探しています.

僕は気がついてみれば11年間ほど,
「民間教育業」というフィールドで仕事をさせていただいて来ました.
その中で,民間教育業の良いところも,悪いところも,たくさん見てきたと思っています.

そして,保護者さんから見た民間教育業(学習塾)の「イメージ」や「理想像」が
必ずしも,現実の「内部事情」と一致しているとは限らないということや,
そもそも学習塾というものは,「仕組み」的に様々な問題を抱えてしまうように
出来ているのだということに多く気づき,そのたびに,深く考えて来ました.

自分の頭の中で考えた色々なことは,僕はずっと頭の中にしまっていたのですが,
とあるとき,仙台のとあるライブハウスで開催された「トークライブ」でそのことを
少しだけお話したら,次のようなお声をたくさん頂いたのです.

  • 「ものすごく参考になった.もっと聞きたい」
  • 「もっと多くの人に「現実」を届けて欲しい」
  • 「あなたしか発信できないから,是非広く発信してほしい」

さらには,このようなお声を受けて色々な周囲の方々に相談をしてみたところ,
「発信をするべきだ」というお声を同じように多く頂きました.

それでもなお,僕は発信というところまでイマイチ一歩踏み出せずにいたのですが,
そんな中,目に飛び込んできたのが,
「教育業界12年目の嫁が語る、個別指導塾の深すぎる闇。」
という記事.この記事を読んで,「これなら僕がもっと真面目に書いて発信しよう」
と決意をするに至りました.

少しばかり長い連載になってしまうとは思うのですが,
今回の連載では「個別指導塾」というところに的を絞った上で,
あくまで冷静に,かつ,今までは表から見えにくかった様々なことを
明確に書き連ねてみたいと思います.最後までどうぞ,よろしくお願い致します.

個別指導塾ブーム

生徒1〜3人に対して先生が1人ついて授業をする
「個別指導」という指導形態が,今ものすごく流行しています.

  • 生徒ひとりひとりに合わせたきめ細やかなカリキュラム
  • 教師全員がプロ教師

という謳い文句は,テレビCMなどでも目にしたり耳にすることが多くなりました.

僕が中学生だった頃は,クラスのうち塾に行っているのが半分くらいで,
そのうちほとんどが集団授業の塾に通っていた記憶があります.
が,最近はというと,中学校のクラスのほとんどの学生が塾にかよっていて,
その内訳が,集団授業半分,個別指導半分くらいに分かれている感じです.

やはり,「プロの先生がマンツーマンできめ細やかに指導してくれる」
というスタイルを求めるご家庭というのは多く,
今となってはすっかり「塾」の一つのスタイルとして「個別指導塾」が台頭しました.

「個別指導」と「全員がプロ教師」

まずひとつ,考えを述べさせてください.
僕は「個別指導」という指導形態と「全員がプロ教師」という謳い文句は
原理的に両立し得ないものである
と思っています.

理由は簡単です.

  1. 塾に入ってくる子どもはたくさんいる.
  2. 個別に先生を割り当てなければならないので,先生もたくさん必要.
  3. しかし,「教育のプロ」ってそもそもそんなに沢山いない
  4. よって,生徒全員に「プロの先生」を割り当てることはできない

つまるところ,生徒ひとりひとりに潤沢に割り当てられるほど
「プロの先生」というのは多くない.という簡単な理由で,
「個別指導」「全員プロ」というのは,両立をし得ないのだ,というのが僕の主張です.

ところが,テレビCM,WEB,新聞広告を見てみると,
この2つの謳い文句を当たり前のように掲げる個別指導塾というのは
とにかく多いです.特に,大手個別指導塾は必ずと言って良いほどそうです.

カラクリは何か?

両立し得ない2つの概念を,あたかも「うちは両立しています」と宣言している大手個別指導塾.
「うちは企業努力で両立させているんです」というのが彼らの言い分ではありますが,
そもそも「原理的に」両立できないことは,いくら企業努力をしても両立させることは出来ません.
ということは,どこかに「カラクリ」があるんです.

ここでもう一つ,僕の考えを述べます.
その「カラクリ」とは,一言で言うと
「プロ教師」という言葉の「曖昧さ」であると僕は考えます.

「プロ教師」とはそもそも何か

個別指導塾も家庭教師会社もそうなのですが,
とにかく「プロ教師」という言葉を多用します.本当に.驚くほどに多用するんです.
「当塾は全員プロ教師です」「プロ家庭教師にお任せください」
「プロ教師しか採用していません」などなど…

この「プロ教師」という言葉を聞いて,皆さんはどのようなイメージを持ちますか?
例えば,「学校の先生としての経験がある先生」
「敏腕予備校講師のような驚くほど分かりやすい先生」などなど…

親御さんがテレビCM,新聞広告などで「プロ教師」という言葉だけを聞くと,
当然のようにこのようなイメージを抱かれることが多いです.

その結果,

「プロの先生がマンツーマンで付いてくれるなら,ここにお願いしてみようかしら」

という風に,塾へのお問い合わせ→入塾という流れが一つ生まれる訳です.

しかし,「プロ教師」という言葉に実体はありません

しかし,実はこの「プロ教師」という言葉には,明確な定義がありません
つまるところ,「プロ教師」という肩書には特に意味がないのです.
認定試験もありませんし,必要な実務経験もありません.
この肩書はいつでも誰でも名乗れるのです.

塾側が「うちのこの先生はプロ教師です!」と宣言をすれば,
その先生は「塾お墨付きのプロ教師」ですし,
何なら,教育経験全くゼロの先生が「僕は今日からプロ教師です!」
名乗っても,全くもって嘘ではありません.
そもそも「プロ教師」と名乗るために必要な資格が一切ないのですから.

ある意味で,「他に名乗るものがないからプロ教師を名乗っている」
という捉え方もできるでしょう.
「プロ教師」という言葉はとにかくフワッとした,実体のない肩書です.

「プロ教師」という言葉の認識のズレ

明確な実体がない肩書というのは,普通は「価値がない肩書」としてみなされるはずなのですが,
どうもこの「プロ教師」という肩書に限っては,個別指導塾の大広告が功を奏してか,
ご家庭からは「信頼性のある肩書」としてみなされていることのほうが多いように感じます.

大手個別指導塾が,本来両立し得るはずのない

  • マンツーマンの指導
  • 先生はみんなプロ教師

という2つのことをあたかも両立しているように見える「カラクリ」は,ここにあります.
「プロ教師」という言葉の「ご家庭からのイメージ」と「本来の意味」のズレが大きいんです.

ご家庭から見ると「プロ教師」という言葉は信頼感,安心感が強く見えるが,実際は「プロ教師」という肩書に意味がないので,個別塾側は「プロ教師」をどんどん講師に名乗らせて,「全員がプロ教師」である状況を簡単に作れる.

ご家庭から見ると「プロ教師」という言葉は信頼感,安心感が強く見えるが,実際は「プロ教師」という肩書に意味がないので,個別塾側は「プロ教師」をどんどん講師に名乗らせて,「全員がプロ教師」である状況を簡単に作れる.

個別塾側が人材を拾ってきて,「はい,あなたはプロ教師ですよ」と一言いえば
その人は「塾お墨付きのプロ教師」なのです.
ですので,手当たり次第に人材を集めてきて,「はい,あなた達はプロ教師ですよ」と
一言宣言してしまえば,インスタントプロ教師の量産」は完了してしまうのです.

「研修制度がしっかりしているから大丈夫」という言い分

ですが,大手塾は「うちは研修がしっかりしているから,全員がハイクオリティなプロ教師だ」
という言い分を主張することも多いです.
しかしこの「研修」というのも,「無いに等しい」ものだったりすることが多いです.

例えば,

  • 中学レベルのテストを1回解くだけ
  • VTRを1回見せられるだけ
  • 書面を渡して,自宅で読んでおいてくださいで終わり

のような感じ(僕の観測範囲には「きちっとした研修を受けました」という話は入ってきたことがありません).

まぁ,これも無理はないのです.
個別指導塾は当然教師を大量に必要としますから,
きめ細やかでハイクオリティな研修なんて,ひとりひとりに対して出来るわけがありません.

以上の色々な構造によって,
「適当な教育素人がプロ教師のお墨付きを得て指導をする」
というケースが,個別指導塾では横行してしまうのです.

【連載第2回に続く】