数学教育を気がついたらかなーり長くやっていますが,
そんな中でとにかく出会う頻度が高いのは,学生たちの「計算ミス」

これが,とにかくもうとんでもなく多いのです.
数学教育をやる人は,この学生の「計算ミス」というものから
逃れることはほぼ間違いなく出来ないと思います.

そのくらい,なんというか
数学教育というのは,計算ミスと必ず向き合わなきゃいけないんですよね.
永遠のテーマ,というか,なんというか…

「計算ミスしないように慎重に計算しようね」

で,数学教育をやる人の多くが,計算ミスを頻発させる学生に次のような言葉をかけます.

計算ミスしないように,慎重に計算しよう!!

まず一言,こういうことをおっしゃる教育者の方々に申し上げたいのは,
こんなことは誰だって言えるということです.
しかし, 分かっているとは思いますが,これで直る子はそもそも計算ミスをしません.
「慎重に計算しよう!!」は,数学教育者にとって,非常に便利な逃げの言葉でしょう.

が,そこで甘んじていちゃ当然いけないわけで,
この記事では計算ミスというものを,もっとリアルに,
深く掘り下げて考えてみたいと思います.

なぜ学生たちは,こんなにも「計算ミス」をするのか?
そもそも,「計算ミス」とは何なのか?
そもそも,学生たちがしているのは,本当に「計算ミス」なのか?

真面目に向き合ってみましょう.

学生たちがしている誤った計算の3分の2は,
そもそも「計算ミス」ではない.

まず,僕が数学教育を長くやって色々な教え子を見てきて肌感覚として感じるのは,
学生たちがしているのは,そもそも本質的に計算ミスではないことが
3分の2くらいのケースを占めているということです.

どういうことかというと…
例えば,次の例を見てください.
ちなみに,よく見かける誤った計算です.

ちなみに,正しくはx=3/2, またはx=1.5です.
この「誤った計算」をした学生の意図,みなさんは分かりますか?

実は,この学生は,左辺の係数2を「右辺に移項」しています.
すなわち,次のような変形をしているわけです.

この移項は当然ながらNGです.
「移項というのは,両辺にある数を加えることを分かりやすく言い換えたものに過ぎない」
ということをきちんと理解していれば,こういう誤りはしません.
(ちなみに,この誤り,中学生も高校生もする子はします.)

で,これを見た数学の先生が言うのです.

「ほら,計算ミスしてるよ.慎重に計算しないと!!」

計算ミスとはそもそも何か

僕の主観ですが, この学生がしているのは「計算ミス」ではありません

「計算ミス」ってそもそも何ですかね?
僕は,本来出来るはずだった計算を,集中力の欠如によってウッカリ間違えてしまう」
ことだと思っています.
しかしながら,この学生は,おそらく計算のしかたをそもそも分かっていません

何が言いたいかというと,この学生は「本来だったら正しく計算をできた学生」
ではないのです.だって,ルールをそもそも分かっていないから.

だから,この学生に対する「教育者としての正しい対処」は,
「慎重に計算しよう!」と忠告することではないのです.
根本的な数学のルールを再度教えこむことなのです.
しかし,世の中の教育者はほぼ確実に「計算ミスに気をつけて!」と言うのです.

僕の感覚では,「計算ミス」に悩む学生の3分の2はこのタイプ

僕の感覚では,「計算ミスが多くて困ってるんですよ〜」
という学生は,3分の2がまずこっちのタイプです.
つまるところ,そもそも「計算ミス」をする段階に達していない

こういう子には,いくら「慎重に計算しろ」と言っても無駄です.
「慎重に間違いなさいよ!」と言っているのと同じだからです.

信号の色の意味が分かっていないドライバーにいくら「安全運転」!!って言っても
意味ないじゃないですか. そういうドライバーは,「慎重に赤信号を渡る」だけなんです.
まず最初に,「赤信号は渡っちゃいけないですよ」って教えなきゃ駄目ですよね.

これを「計算ミス」で片付けたら学生も保護者も納得してくれるので,
教育者としては楽なんですよ.しかし,何の解決ももたらされていないことも
しっかりと認識すべきだと,僕は思います.

「イコール繋がない症候群」

まず,先ほど述べたような「そもそもルールが分かっていない」子に対しては,
基礎的なルールをもう一度仕込み直すしかありません.

その一方で,多少「計算のルール」は分かっているような子たちでも,
やはり誤った計算をガンガンします.
つまるところ,「うっかり」のミスを頻発させる子というのは多いのです.

で,僕が最近至った結論としては,こういう子たちは
イコールを使う回数が極端に少ない 傾向があるのです.

つまり, 計算式の次にイコールを書き,その次にはもう答えを書こうとするのです.

小学校のテストの幻想

小学校の算数のテストって,式が与えられたら,イコールの次にもう答えが書けるんですよね.
それはそれで良いのですが, 問題なのはこれをいつまでも引きずる学生が多いということ.
中学1年くらいで治れば良いのですが,高3まで引きずっている子も平気でいます.
そういう子は次のようなミスをするのです.

次の二次関数を標準形に直しなさい(平方完成しなさい).
【解答】

この答えは,正しくは  です.

この誤った計算の「意図」,わかりますか?
それは,「丁寧に一歩ずつ計算」をすればわかります.
僕なら次のように解答を書くでしょう.

正しい計算を見て,先程の学生のミスの理由がわかりましたか?
さきほどの学生は,3行目のカッコの中の「-1」を外に追い出すときに,
カッコの係数の2をかけるのを忘れています
その結果,後ろの定数項の値がずれてしまったのです.

このミスがなぜ起こるか?
僕は,使うイコールが少なすぎるのが原因だと思っています
とにかくイコールを「繋げなさすぎ」なのです.
「イコール繋がない症候群」と,僕は呼んでいます.

たくさんのことを一気にやろうとすると,どこかが破綻する

最初にあげた学生は, 実質的にイコールを1つしか使っていません
(最初のy=はのぞきました)
1つのイコールで,彼は一体いくつの「変形」をしているのか?
数えてみましょう.

1つのイコールで,この学生がした変形

  • 最初の2項を2でくくる.
  • xの係数を2で割った2乗を足して引く
  • カッコから追い出す
  • 因数分解をする
  • 追い出した数を後ろの3と足す

この学生は,ひとつのイコールでこれだけ多くの変形をしています.
で,「イコールを減らしたがる」学生は基本的に「手を動かしたくない」ので,
計算用紙でガリガリ計算なんてこともしないのです.

つまるところ,この学生は,これだけの変形を暗算でやっているのです.
僕から言わせれば,どこか1つか2つくらい,間違えて当然です.
事実として,この学生は1つの操作でミスをしています.

  • 最初の2項を2でくくる.
  • xの係数を2で割った2乗を足して引く
  • カッコから追い出す ←ここでミスをした
  • 因数分解をする
  • 追い出した数を後ろの3と足す

一方で, あとで挙げたほうの「解答」では,
1つのイコールにつき,変形は1つまたは2つしかしない ことを徹底しています.
その結果, 頭のなかで同時並行でたくさんのことを考えることから開放されるのです.

このような学生への処方箋

このような学生への処方箋は, やはり「落ち着いて計算しなさい」ではありません.
そもそも,「落ち着いて計算」って一体何ですか.抽象的すぎてそれじゃ分からないですよ.

僕は「イコール繋がない症候群」で計算を間違える学生には,2パターンいると思っています.

  1. イコールは少ないほうが良いと思っている
    (スパっと答えを書くほうが頭が良いという誤解).
  2. そもそも手を動かすのがめんどくさい

1.の子には,「イコール1つにつき変形は1つ」という指導を徹底します.
それこそ,2つ以上の変形をした段階で,僕の授業ではバツにするよ.くらいの指導を.
で,それに慣れてミスが減ってきたら,
「イコール1つで変形2つ」くらいまでだったら許可してあげるのです.
そうすると,徐々に確実性とスピード感が同時に実現できてきます.

そして,「イコールは本来,たくさん連鎖させるものだ」ということを仕込みます.
大きな問題というのは,一歩一歩解くものだとしつこいくらいに言うのです.
「暗算には限界がある」ということも言ったほうが良いでしょう.

で,2.の子には,計算用紙(コピー用紙)を渡して,
どんなに汚くても自分が分かれば良いから,ガリガリと書きなぐって計算をしろ
と指導します.手を動かすのをめんどくさがる子は,学校の
「計算は綺麗に!」「ノートは綺麗に!」という教えを信じていて,
「綺麗に書くのはめんどくさい」と思っていることが多いから,
「汚くても自分だけが分かれば良いから,とにかく書き殴れ!」と言うと
意外と効いたりすることが多いように感じます.

何が言いたいかというと,
どちらも「落ち着いて計算しましょうね」じゃないってことです.

「結果だけ丸暗記」している場合もある

それと,もうひとつのパターンとして,
結果だけを丸暗記しているから,イコールが少ないという子もいます.
こういう子は,正しい結果を丸暗記していることが多いので,
イコールが少ないというだけで,計算間違いはあんまりないです.

が, こういう子は経験上「暗記」のしかたを,9割以上の確率で勘違いしています
コレに関してはかなり根深い問題なので,別の記事で改めて考察しますが,
こういう子は公式を「英単語」や「歴史の年号」と同じように暗記します.
僕はこれを「丸暗記」と呼ぶのですが,丸暗記と丸忘れは直結です.
だから,こういう子には「正しい暗記の仕方」を
丁寧に仕込まなければなりません.

じゃないと,テスト終わった瞬間に全部のこと忘れるんですよこういう子は.
で,受験のときに何も覚えていないんです.

ひとことで「計算ミス」といっても,これだけ奥が深い

まぁこういう感じで, ひとことで「計算ミス」と言っても,
これだけ奥深いものであると僕は数学教育を通じて実感しています.
まだまだこれでも,「計算ミス」の考察としては足りなすぎるくらいではないかなぁと.

数学教育をする上で, ただ「計算ミス!」「落ち着いて計算しよう!」とだけ
言っている人は,今一度「計算ミス」について深く考えてみなければならないでしょう.
そこには様々な種類があって,それぞれに適切な対処があると思うのです.
それを考えて,実行することこそ,教育者の仕事なんじゃないかなぁ.

ということで, 僕もこれから新たに気づくことがたくさんあるのでしょう.
その都度,ここで発信していけたら良いなと思います.
お読み頂き, ありがとうございました!